あわれみ

溺れる子どもを助けた老人

が溺れるさまを

助かった子どもがわらう

ならず者に手を差し伸べた牧師が

しずかにこめかみを撃ち抜かれる

善良なる心に味をしめた人々が

厄介ごとを押し付けてゆく

それをきみは遠目で憐れむが

口をつぐんだその先も教えてくれ

許せない なのか

こうはなりたくない なのか

あるいは

うらやましい なのか

ともあれぼくは憐れまない



凛として咲いていた花が

十の少女に押し花にされる

家族のために食物を運ぶ蟻が

遊び半分に踏み潰される

いくつもの命を焼いたり砕いたりしたものを

みんな笑いながら喰らっている

それをきみは苦々しく見ているが

目をつむったその奥を教えてくれ

罪を感じているのか

怒りを感じているのか

あるいは 快感を感じているのか

ともあれぼくは憐れまない



すべては輝き

一縷の光

きれいごと

命は平等なり

職業に貴賎なし

愛は世界を救う

きれいごとばかり抱え込んだが

土砂を抱えて生きるよりましだろう

ぼくはそのきらびやかなうそを愛してみせよう

腹の底から



現実を見ろときみはいうが

ほんとうのところ現実などない

誰にも見えはしない

各々が信じたいものに票を募る

そこに実体はない

過去も未来もなくただきょうがあり

時も愛もなくただ言葉があった

きみは下馬評に従って票を入れ

ぼくは穴馬に賭けているだけだ

いっしょに安い酒でも飲んで見守ろうぜ

言葉が足りない

言葉が足りない

とぼくが言うと

こんなに長く書けるのに?

とあなたは言う

いやそうじゃないんだ

長く書かなければならないほどに、言葉が足りないのだ

ほんとうはすべてを一語で済ませたいのに

この気持ちをあらわす言葉なんてどこにもありはしない

だから止むを得ず

其れに近しい紛い物の言葉たちを

引っ張り出してまで紡ぐのだが

そのたびぼくは何度もこう思うんだ

ああ、言葉が足りない!

沈黙

植物はいつもにぎやかで

青空の雄弁さといったらないが

人はみんな黙っている

にこやかに見えるが

彼らは音を聞いていない

楽しそうに喋って見えるが

彼らは音を発していない

彼らは互いに ただ

寂しさを発し 寂しさを聞いていた



人は本当はいつもひとりだと

だれもが生まれた時から知っていたから

凍えそうな身を寄せ合い、安息さえ食べて孤独を埋めようとしていた!



日陰者よ 案ずることはない

だれもが寂しい

人気者よ 怯えることはない

だれもが悲しい

何者でもない者よ 恐れることはない

だれもが…

藍 


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